Dear.チハヤ
チハヤ。
これが、最後の手紙です。
これまでたくさん手紙を送っちゃったね。これもあわせて、全部で10枚。
10枚だよ?私、こんなに誰かに手紙書いたことなんてなかったかも。
本当はね、初めに書いた手紙だけチハヤに送ろうと思って、ハーバルさんにお願いしたの。
ちょっとチハヤを驚かしてみよう、っていうほんのささいな気持ちだったんだ。
手紙は、もしも私が空に帰っちゃったら、ハーバルさんに一年後に届けてほしいって頼んであるの。
だから、願うならこの10枚の手紙がずっとハーバルさんの元にあって。
それで、私も忘れた頃に、ハーバルさんが苦笑しながら返しに来てほしいな。
(ハーバルさんに迷惑かけちゃうね。でも、私、どうしてもチハヤに気持ちを伝えたかったんだ。)
後の手紙は、ほとんど日記みたいな気持ちで書いてたの。
手紙を読んでるチハヤの顔を思い浮かべてるとね、自然と今の私のことがすらりと出てきたの。
でも、ね。こんな身体になっちゃってからは、気持ちも変わったの。
もしも、私がチハヤを置いて行っちゃったら。
私はただ、ゆっくりとチハヤの頭の中から消えていくんじゃないかって、怖かったの。
昔、私のおじいちゃんが亡くなった時にね、私はすっごくおじいちゃん子だったのに、
日がどんどん経つにつれておじいちゃんの顔が思い出せなくなっていったの。
おじいちゃんの笑った顔、怒った顔、悲しそうな顔。
ピントがずれた写真みたいに、薄くなっていって、遺影の中のおじいちゃんの顔しかはっきりと思い出せなくなるの。
おかしいよね、遺影の中のおじいちゃんはたった一瞬だけの顔なのに、
他の全部のおじいちゃんとの思い出を押しのけて、その遺影だけが一番頭に残ってるだなんて。
・・・そんな風に、私もチハヤの中で、遺影だけがはっきりと頭に残ってしまうんじゃないかって思うと、怖いの。
風化していくペンキが、ペリペリとはがれていくみたいに。
私との記憶がひとつひとつ、チハヤの頭の中から消えていくことが、悲しくてたまらなくて。
私のことを思い出の一部だけに留めてほしくなくて。
だから、今まで書いた手紙をハーバルさんに預けたんだ。
チハヤに、紙に沁み込んだインクからでもいいから、私のことを思い出してほしかったの。
でも、でもね。これで最後にします。
チハヤ。
元気に、暮らしていますか。
サクラと一緒に、毎日、笑顔で暮らしてほしいな。
ケンカしても次の日には仲直りして。誕生日には、大きなケーキを焼いてお祝いしてね。
きっと、私も空から見てるから。
おめでとうって大きな声で言ってるから。だから、一瞬でもいいから空を見上げてほしいな。
サクラにも手紙を書こうと思ったんだけれど、そうしたら私、辛くなってきっちゃって、結局書けれなかったんだ。
なんで、もっとこの子の傍にいてあげられないんだろう。どうしてもっと、力いっぱい抱きしめてあげれないんだろう。
後悔、って言葉を使いたくはないのに、でもやっぱり考えてしまいます。
寂しくて、悲しくて、いっぱいいっぱいになってしまうの。
もっとサクラの傍にいたいけれど、私にはもうできないんだよね。
でも、ずっとサクラを見守ってる。これだけはかならず、約束します。
だから、私はサクラのこともちゃんと見てるって、チハヤから伝えて欲しいな。
私、ワガママばっかりだね。ごめんなさい。
チハヤ、今までありがとう。
たくさんたくさんありがとう。
出会って、一緒になれて、サクラとも出会えて、私は本当に幸せでした。
もしも、チハヤが私のことで苦しんだりしてたら、
本当は嫌だけど、この手紙を全部燃やして、私のことを忘れていいから。
だから、幸せに元気にサクラと一緒に暮らしてください。
私は、チハヤが幸せなら、サクラが幸せなら、それ以上のことはなにもないよ。それだけで、私も幸せだから。
チハヤ、大好きです。ずっと、これからもこの先も。
私と出会ってくれて、好きになってくれて、サクラと出会わせてくれて、
たくさんの幸せをくれて、ありがとう。本当にありがとう。
感謝って言葉じゃ言い表せないくらい、チハヤにはたくさんのモノをもらいました。
本当に、本当に、ありがとう。
From.アカリ
X8 夏の月3日
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